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2015.03.04  高卒、居酒屋、女の一人暮らし、鉄の意思だけで夢を手に入れる物語『プリンセスメゾン』 レビュー @マンガHONZ

掲載『マンガHONZ』

高卒、居酒屋、女の一人暮らし、鉄の意思だけで夢を手に入れる物語『プリンセスメゾン』 レビュー

 

プリンセスメゾン
作者:池辺 葵
出版社:やわらかスピリッツ×モチイエ女子project
第7話:2015年2月5日更新

「欲」をどうハンドリングするか?

人のアクションは、これに尽きる。
とくに鋭く出るのが、「住むところ」を売ったり買ったりするときだと思う。

 

怖い?「家を買う」

フランスに「ヴィアジェ」という不動産売買システムがある。

家やアパルトマンを持っている高齢者が、「自分が死ぬまでそこに住み続ける」という条件で、格安で不動産を売りに出す。売買契約が成立すると、買主は売主 にまずまとまった金を支払い、それから毎月、定額を支払う。売主にとってのメリットは、生きているあいだの住まいを確保でき、老後のためにまとまったお金 が入り、さらに月々決まった収入ができる、ということだ。

買主にとっては、格安で不動産が手に入ることがメリット。が、どれくらい「格安」になるかは、「売主がいつ亡くなるか」による。こんな話もある。フランス で最年長だった女性が122歳で亡くなった。この女性は90歳のとき、ヴィアジェのシステムでアパルトマンを売る。が、途中買主の方が(普通の寿命で)先 に亡くなってしまい、買主の奥さんが、女性が亡くなるまで月々の支払いを続けた。

「売主がなるべく早く亡くなることが、買主の得」ということがあまりにはっきりするから、日本では受け入れられ難いと思うけれど、買主は承知でリスクをと るのだから、フェアではある。人の欲から目を背けない潔いシステムという気もする。英雄ド・ゴール大統領もこのシステムで不動産を購入したそうだ。

 

「家を買う」マンガ

きくからにドラマが生まれそうなシステム。フランスではその名も「ヴィアジェ!」という映画もできた(1972年)*。ヴィアジェのない日本で、住まいの売買を通して「欲」を描くのが、一見おだやかなこのマンガ。『プリンセスメゾン』**

どんな理由で主人公が持ち家獲得に突進するのか現時点ではわからないが、「欲」を貫くのも、けっこうたいへんだ。

「欲」を捨てず、振り回されず、上手にハンドリングするのに必要なのは、「鉄の心」

夢を「手に入れる」までは「手に入れるもの」と「手放すもの」のあいだで、手に入れた後は、「手に入れているもの」と「手放しているもの」のあいだで、折り合いをつけていく。欲をハンドリングする鉄の心は、どのステージでも必要だ。このマンガはそこをきっちり描いている。

人の「欲」の生み出す陰と陽、その両方を、描く。

夢の持ち家を手に入れる「だけ」の漫画なら、もっとずっと面白くなくもなりそうなのに。池辺葵、さすが。それぞれの登場人物の住まいが丁寧に描かれるのをみるのも、楽しい。
 

Le Viager
出版社:
発売日:
  • Amazon

*「ヴィアジェ!」 いまにも死にそうな患者を診察した医者が、チャンス!とその患者の持ち家を自分の家族にヴィアジェで売却させるが、思いがけず患者はどんどん元気になり...支払いの負担はかさみ...ついに医者の家族は(元)患者を...というストーリー。

**『プリンセスメゾン』 やわらかスピリッツ×モチイエ女子project presents、『繕い裁つ人』の池辺葵作。高校卒業後居酒屋に勤めて8年、質素なアパートに住みながら、モデルルーム見学の常連となり、持ち家獲得に突き進む主人公と、不動産会社の営業や受付女子など周りの人たちとその家々の物語。(月1回更新、無料!

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掲載『マンガHONZ』